エッセイ
Vol.43 むずかしい
「胃ガンがあると言われたので検査してくだい」
東京のある研究所で胃ガンの診断をされた人がきた。胃カメラをしてみると、わたしの目には胃ガンが見えないのである。
困ったぞ!大変困った!
「あなたの胃にはガンはないと思います。しかし、わたしの間違いだと困るので3ヶ月後にもいう一度検査させてください」
今度は友人の産婦人科の医者から電話がきた。「おい!おれが一生懸命不妊治療をして子供ができたばかりなのに、乳ガンの疑いがあると手術が決まったらしい。もう一回見てくれないか」
「検査をしたが、おそらくガンではないと思う。授乳中の変化ではないか。おれが責任を持つからしばらく様子を見させてくれ」
幸いなことに二人ともガンは出てこなかった。ガンだと言われた人に、そうではないと言うのは大変勇気のいることである。ガンではない人にガンのワクチン治療をすると”再発”は絶対にしないのである。名医かもしれない。
先日テレビである宗教家?が「この人はまだ生きているのです。ミイラなどではない」と言っていた。考え方が大きく違うのである。病気の時にどの治療法を選択するのか。権利は自分にある。しかし、医者としては”簡単なうちに”治療させて欲しいものだ。そうすると抗ガン剤もいらない。ガンでも治るのである。最近”エビデンス”という言葉を耳にする。世界的に実証された治療法のことである。アメリカのガン学会で発表されると、翌月にはその情報がわれわれの耳に届くようになった。本当に日進月歩である。薬も新しいのが次々を開発されている。抗ガン剤と放射線で乳ガンを手術しないで治そうとする試みも始まるようである。
ガンにはいくつもの顔がある。急に悪くなるガンもあれば、ゆっくりと大きくなるガンもある。性質が違うのである。われわれも初期のガンかどうか迷う時には、日本で一番多く乳ガンを見ている病理の先生たちに診断をお願いすることがある。初期のガンの診断に優れているのである。ただこの”初期のガン”は無症状で、すぐには悪くはならない。言われた本人も納得できないこともある。
代替医療、統合医療という言葉がはやっている。沖縄の健康産業は大変さかんである。これらを否定するものではないが、健康食品だけでガンを治そうとする人がいる。100万円近い漢方薬を飲んでいるうちにガンがひどくなって来た人もいる。おっぱいにしこりがあり、温めすぎて火傷を負って来た人もいる。超音波で見ると水の溜まった袋があるだけで注射器で吸ったら亡くなった。先の漢方薬を飲んだ人も初期のうちに手術を受けたら30万で済むのである。早いうちに治療をする。その上で代替医療を利用して体力をつけるのが良い。ひどくなって、おっぱいが溶け始めている進行乳ガンに対して『毒素が出てきて良くなっている』という人がいる。そのようなガンを治療しなければならない医者は大変苦労しているのである。
追記:2003年6月ごろに考えたことである。乳ガン治療が大変進歩してきた。那覇西クリニックでは発売前の新薬を治験という形で使用できる場合もある。悩みのある方はどうぞご相談ください。
最終更新日:2025.09.08