Stanford大学の臨床試験

那覇西クリニックスタンフォード式乳がん診療への取り組み

Vol.02 Stanford大学の臨床試験

那覇西クリニック 乳腺科
診療部長 玉城 研太朗
(2015年07月29日 掲載)

Stanford大学にて乳がんの診療、研究に携わってまいりましたが、いよいよ沖縄に帰る日が近づいてまいりました。世界は本当に広いと痛感し、ここで学んだことは本当に多かったと、今改めて思うところです。Stanfordで学んだことをどのように生かすか、夢と希望に満ち溢れた沖縄の未来の構築のために、最大限尽力致したいとワクワクしているところであります。前回はStanford大学の乳腺診療にフォーカスを当ててお話を致しましたが、今回はシリコンバレーの見どころも交えて、乳腺診療の各論と帰国して沖縄でどのような取り組みを行うのかといった所信表明を含めてお話したいと思います。

当方の研究室外観とStanfordの病院全体像の写真
(左:当方の研究室外観、右:Stanfordの病院全体像)

Stanford大学はどのようなところにあるのか

Stanford大学はサンフランシスコの約60キロ南のシリコンバレーのちょうど中心にある大学です。第1回目の便りでも書きましたが、学力のレベルもさることながら広大な敷地面積で、端から端まで歩きますと1時間を超えてしまうほどです。校内は縦横無尽に無料シャトルバスが走っております。シリコンバレーはStanford大学を中心に世界の名だたるIT関連の企業が集結している地域です。例えば当方の住んでいるMountainViewにはGoogleの本社やNASAの研究所があります。「いいね!」でお馴染みのFaceBook、Yahoo、Appleもこの近くにあり、スティーブジョブズがStanford大学で講演したのも有名な話です。

このあたりの見どころを少しご紹介致しますと、まずは何といってもサンフランシスコではないでしょうか?サンフランシスコは坂の町でケーブルカーが急勾配の坂を上っていきます。港町だけあってシーフードも楽しむことができますが、やはり日本の海産物に慣れ親しんできた我々にとってはいささか物足りない感じがしました。

急勾配の坂を行き来するケーブルカー、シーフードの屋台、小生の写真
(左:急勾配の坂を行き来するケーブルカー、中央:シーフードの屋台、右:小生)

またクルマで数時間のところにはアメリカの三大国立公園のひとつヨセミテ国立公園があります。こちらは一見の価値があります。そしてワインで有名なナパバレーは大変素晴らしく、おいしいワインを堪能することができました。

ナパバレーのワイナリーの写真
(ナパバレーのワイナリー)

Stanford大学の臨床試験

少しだけ難しいお話を致します。第1回目の便りにも書きましたが、日本とアメリカの大きな違いの一つに「治験・臨床試験の充実」ということが挙げられます。那覇西クリニックでも「治験・臨床試験」に関しましては力を入れている部分ですが、沖縄県全体を見渡してみますと残念ながらまだまだといった印象はぬぐえません。米国のガイドラインではできるだけこのような試験をベースとした治療を行うことが最大のメリットだということが記載されていますし、当方も全く同意見です。Stanfordで行われています治験を一つご紹介致しましょう。

Stanford大学の私の所属しております研究室はHER2(ハーツー)陽性乳癌の研究で大変優れた研究室です。HER2陽性乳癌に対する特別な薬ハーセプチンの生みの親であるUCLAのデニススレイモン教授が有名ですが、当時のお弟子さん(准教授)が当方の師匠のマークペグラム先生です。ハーセプチンが治療薬として使用できるようになり10年以上がたち、現在マークペグラム先生を中心としてハーセプチンをパワーアップさせたような薬の開発が行われているところです。このお薬はハーセプチンが効きにくい患者さんにもよく効くという基礎実験の結果が出ており、今まさに臨床試験を行っているところで、我々としましても大変期待をしているお薬です。

スレイモン先生、マークペグラム先生、ハーセプチンを話題にした映画の写真
(左:スレイモン先生、中央:マークペグラム先生、右:ハーセプチンを話題にした映画)

現在進行中の試験、これから始まる試験の写真
(左:現在進行中の試験、右:これから始まる試験)

 

このような最新の研究によって多くの乳がん患者さんを救うことができたらうれしい限りです。この試験以外にも現在30以上の試験が並行して行われております。

シリコンバレーで感じる日本、沖縄

シリコンバレーには世界各国から多くの人が集まっています。そして日本からも多くの方がStanfordで学びシリコンバレーで活躍をしています。本当に多くの方々にお会いしまして、これもまた当方にとって、また沖縄県にとって大変メリットになったと考えております。シリコンバレーで日本の盆踊りを体験しました。日本人スーパーに行けばオリオンビールや沖縄そばも手に入ります。そばとビールに世界進出の先を越されてしまいましたが、乳腺医療、医学研究の世界でも沖縄が世界のリーダーになるべく、心の奥から熱いものが湧き上がってまいりました。

オリオンビール、沖縄そば乾麺、スッパイマンの写真。いずれもスーパーにて
(左:オリオンビール、中央:沖縄そば乾麺、右:スッパイマン、いずれもスーパーにて)

シリコンバレーの盆踊り大会の写真
(シリコンバレーの盆踊り大会)

帰国して夢と希望に満ち溢れた沖縄をどのように描くのか

さて、Stanfordでの有意義な時間も残すところわずかとなり、やはり重要なことは帰国してここで学んだことをクリニックに沖縄県に還元できるか、そして夢と希望に満ち溢れた沖縄県を目指してどのように貢献できるのかということだと思います。

まず最初に沖縄県に基礎研究のメッカとなるようなシステム作りを行っていければと思います。幸い我が県には沖縄科学技術大学院大学(OIST)と琉球大学があり設備も充実しております。ただ残念ながらこの施設や設備を十分に活かしきれていないのが現実です。例えば沖縄県には種々の遺伝子を網羅的に検査できる次世代シークエンサー(NGS)が10台以上あります。これだけの台数を有する県は全国でもまれで、またがん研究における遺伝子研究もいよいよ注目され始めてきております。沖縄県でがん研究に特化したNGSを用いた研究は未だ行われておらず、各研究機関と連携をとってNGS研究に着手をしたいと思っております。沖縄ががん遺伝子研究の世界の最先端研究地域となれればいいなあと考えております。

Stanfordの遺伝子学の研究室の写真
(Stanfordの遺伝子学の研究室)

当方が着手してまいりました血管の研究や癌細胞の増殖に関する研究もStanford大学と連携して是非沖縄県で継続をしていきたいと考えております。もう一つ重要なポイントとしては、私が携わった研究の内容をどうにか治療に役立てたいと考えており、つまり新たな薬を作る(創薬研究)を様々な企業とも連携しながら進めていきたいと考えております。

癌細胞の増殖の研究、研究室内の様子の写真
(左:癌細胞の増殖の研究、右:研究室内の様子)

また沖縄県の全県のコホート研究も進めていきたいと考えております。例えば沖縄県は昨今生活習慣病が問題となっていますが、こうした生活習慣病と癌の発生に関しましても全県規模の研究を行うことで様々な対策を講じることができると考えております。また台湾や韓国、東南アジア地域との共同研究を行い、アジア地区の乳癌を含めたがん対策研究を考えています。

乳癌診療に関しましてもStanford式乳癌診療を取り入れ、治験や臨床試験のますますの充実、そしてひまわりの会の皆様とも一緒に乳癌サポートケアの充実にも力を注いでいこうと考えております。那覇西クリニックでは患者さんの心のケアや生活の質に関する調査、薬物の副作用対策なども系統的に科学的に検討を行っており、こちらは国内外の学会等でも評価を頂いているところですが、Stanfordのシステムの優れている点を取り入れ、さらに充実した乳癌診療を行っていけたらと考えております。

「沖縄から世界へ」那覇西クリニックは多くの患者さんのために最高の医療とさらなる飛躍のために全力で頑張ってまいりたいと思います。