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エッセイ

Vol.41 線虫と乳がん/先進技術の恩恵早く

 現在日本人では2人に1人ががんに罹患(りかん)し、乳がんについては11人に1人が罹患するといわれている。

 近年、日本における乳がん罹患率は上昇傾向にあり、2013年沖縄県は乳がん罹患率が全国ワースト2位となり、高い水準にある。増加傾向にある大腸がんとともに、早期発見・早期治療は非常に重要であり、多くの県民に乳がん検診を受けるよう医療はじめ関係機関は日頃の啓発に努めている。

 一般的な乳がん検診として、マンモグラフィや乳房超音波検査(エコー検査)がある。乳がん治療薬もさることながら、乳がん検診の分野においても技術革新はどんどん進んでいる。しかし既に報じられているように、体に負担のない方法、尿一滴でがんの存在が分かるかもしれない、新たな検診技術の研究が沖縄県で始まることになった。

 「線虫」をご存じだろうか。線虫は直径5ミリにも満たない大変小さな「ムシ」である。線虫は嗅覚が非常に優れており、人間の約3倍、犬より多い1200個の嗅覚受容体を有している。

 線虫はその化学走性(匂いに反応する動き)を利用して簡便に匂いに対する応答を調べることができる。基礎研究において、線虫はがん患者の尿に誘引され、がんのない人の尿には忌避反応を示すことが証明されている。

 また先行研究ではがん発見の感度95.8%と現行の検診システムと比較しても非常に高い値を示している。

 線虫はシャーレなどで寒天培地した上で大腸菌を餌として飼育。それを冷凍保存により半永久的に線虫株を保持できるなど飼育が容易である。加えて検査コストが低いということも線虫検査の利点の一つではないかと考えられる。

 2017年7月より沖縄県で乳がんに関する線虫の乳がん研究が開始となり、判定機器に関しては大手企業が開発を進めている。

 尿一滴で乳がんに罹っているかどうかが分かるようになるかもしれない。

 現状ではあくまで研究の段階なので、検査の結果がすぐに臨床につながるということではないが、この研究がうまくいけば近い将来実用化が可能だろう。体への負担がなく安価で精度の高い新たな乳がん検診システムが広まることが期待される。

 世界的にがんによる死亡者数は年間800万人を超えるといわれ、がん医療費、がんによる早期死亡などによる経済的影響、損失は全世界で年間約9千億ドル(100兆円)ともいわれている。

 先進技術の恩恵を早く受けられるよう沖縄の多くの女性に、線虫を利用した乳がん検診を受けてもらう機会が生まれ、乳がんの早期発見・早期治療につながることを期待したい。

(琉球新報論壇 2017年12月3日掲載)

那覇西クリニック乳腺科 玉城 研太朗

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