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Vol.33 「沖縄県がん治療と生殖医療のネットワーク構築に向けた取り組み」

 昨今のがん治療薬の進歩は目覚ましく、例えば乳腺領域においては内分泌療法、化学療法、分子標的治療の発展により多くのがん患者さんの命を救うことができる時代になってまいりました。

 その一方で治療が複雑化し、さらに治療期間が非常に長い薬剤もございます。我々はしばしば20代30代の若い患者さんの治療にあたりますが、必ずと言っていいほど問題に挙がりますのが患者さんの妊孕性(にんようせい)です。妊孕性とは妊娠のしやすさのことで、化学療法などの強い治療により卵巣がダメージを受け妊孕性が低下してしまうことがございます。当然のことですが、がん治療において一番重要なことは「がんを治す」ことだと思いますが、最近は治るがんが増えてきており、治療の先の生活の質(quality of life: QOL)が注目されるようになってまいりました。妊孕性の温存はがん患者さんのQOLの重要な要素の一つとなっています。

 それでは妊孕性の保持のためにどのような治療選択があるのでしょうか?今年の米国腫瘍学会で卵巣を保護する薬(LH-RHアゴニスト)を投与することで、化学療法を行う女性の妊娠・出産率が向上したというデータが発表されました。また、受精卵凍結や卵子保存も妊孕性保持のためのとても重要な選択肢の一つではないかと考えます。しかしながらこのような治療法はがん治療医と産婦人科医の連携が極めて重要になってまいります。

 昨今本邦において若年がん患者に対する妊孕性温存療法の適応や治療法の選択などに関するネットワーク「日本・がん生殖医療研究会」が発足しました。また沖縄県におきましても、我々がん治療施設と琉球大学産婦人科教室、沖縄県婦人科医会、沖縄県医師会と連携をとりながら、治療を受けられる患者さんの妊孕性温存のためのシステム作り、また正しい情報の発信の場として「沖縄県がん治療と生殖医療ネットワーク」の設立に向け現在準備委員会が発足致しました。

 がん治療の進歩は目覚ましく、我々は多くのがん患者さんを救うことができる時代になってまいりました。そしてその先の生活の質を考えるうえで、「妊娠・出産」の選択肢が増えることは多くの女性の皆様、またそのご家族にとってとても重要な要素ではないかと考えます。沖縄県の皆様が安心してがん治療が受けられるよう「沖縄県がん治療と生殖医療ネットワーク」の早期の設立にご期待ください。

(沖縄タイムス 「命ぐすい耳ぐすい」2014年10月掲載)

那覇西クリニック乳腺外科
玉城 研太朗

最終更新日:2014.10.25