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Vol.30 遺伝性乳がんについて -アンジェリーナ・ジョリー問題を考える-

 世界的人気女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳癌罹患リスクの高い遺伝子変異を有するということで、両側乳房切除術を施行したという衝撃的なニュースが世界中を駆け巡った。この問題は遺伝子変異があるから乳房切除をしたというところに焦点が当てられ報道がされているが、実は非常に奥の深い問題で、医学の面のみならず、倫理的側面あるいは社会的側面から様々な問題を抱えている。

 遺伝子とは、親から子へ受け継がれる体の設計図で約25000種類の遺伝子があると言われている。人間の遺伝子は基本的には共通であるが、部分的に異なっている部分があり、これが人間個人個人の顔の形、髪や皮膚の色といった個性となるが、病気になりやすい体質とも関係しているのである。件の遺伝子はBRCA1、BRCA2遺伝子というものでこの遺伝子のどちらかに変異を認めた際、乳癌や卵巣癌を発症しやすい体質となる事が研究されてきた。

 BRCA1、BRCA2遺伝子変異がある場合、乳癌発症のリスクは40-85%で若年発症の傾向を認め、卵巣癌の発症リスクも15-40%と高率である。さらに男性乳癌の発症リスクが増加することや、昨今では前立腺癌の発症リスクとの相関も報告されている。ではこの遺伝子検査を受けることはメリットなのだろうか?実は一概にメリットがあるとは言えないというのが正直なところである。

 まず本検査を受けることのメリットとしては、検査を受けて変異の有無をはっきりさせることで今後の人生計画を設計でき、また変異があれば定期的な乳房検査や卵巣癌検査を計画できる。しかしながらもし遺伝子異常が見つかってしまった場合、乳癌発症リスクが高いという不安を抱えてしまい、またこの遺伝情報が誰かに知られることで、結婚や就職といった社会的問題が生じるのではないかという不安を抱いてしまう。

 沖縄県では本検査ができる施設は限られているが、我々の施設では本検査を受ける前に専門スタッフによるカウンセリングを行い、メリットデメリットを十分理解して頂いた上で本検査を受ける受けないを判断して頂いている。遺伝性乳癌というものがどういうものなのか、正確な情報を知って頂くことが極めて重要である。

(2013年5月沖縄タイムス「論壇」掲載)

那覇西クリニック乳腺外科
玉城 研太朗

最終更新日:2013.05.25