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Vol.07 3点セット

 仏壇を相続した。仏壇を相続するとお盆が忙しい。いつ訪れるか分からないお客さんのために家を離れることもできない。

 忙しい、忙しい我が家の女性にいつも言われることは「あなたの仏壇だからね!」

 世間の嫁さんたちもきっと大変な思いをしているのであろう。沖縄の長男嫁は可哀想である。別に仏壇など相続したくもないのに、長男の嫁というだけで仏壇の方から勝手についてくるのである。その上に墓まですりよってくるから始末に負えない。

 仏壇にはその他たくさんのおまけが付いてくる。亡くなった父の初七日、49日、100ケ日、そして1年忌がくる・・・・・・いつ終わるのであろうか。訪れる方々へのお返しなど数限り無い出費が続くのである。そうそう忘れてはいけない。シーミーもあった。

 長男嫁は大変である。姑は嫁にきびしく、息子や娘にやさしいのが普通である。年老いた両親は少しずつ“ぼけ”や健忘症がでてくる。嫁さんにこんなによくしてもらっているのに嫁さんをほめることは少ない?ようである。

 ときどき疲労困ぱいで倒れるように入院してくる患者さんがいる。やはり長男嫁である!吐き出すように話をすると心もスッキリしてくるようである。言いたいことをためてはいけない。

 嫁さんよ!疲れてはいけない。年寄りとむきになってけんかをしてはいけない。ラジオで弘兼というマンガ家がすてきなことを言っていた。年寄りとつきあう方法は「さからわず、いつもにこにこ、従わず」である。

 「親の面倒を見たものには福がある」はずだった。仏壇と墓ばかりでは困ったものである。

 我が家は借家であった。母の死後、借家は返すことになった。ある日、入院していた父を外泊で家につれてきた。もの言えぬ父は一晩中落ち着かない。そこは私の家であって、父と母が暮した家ではなかったのである。

 家のありがたさがわかった一日であった。自分のにおいのする家、全ての思いのこもった家、家の歴史は家族の歴史である。

 親の家を切り売りして相続するときには墓も仏壇も等分にしたいものである。

 家は建て替えられても、このまちかどを忘れてはいけないし、ふるさとを忘れてはいけない。家を切り売りしてはいけないのだ。

 わたしは子供たちに宣言した。仏壇と墓をみるものにこの家をつけてあげる。「相続の3点セットである」

(2003年3月29日 掲載)

那覇西クリニック理事長
玉城 信光

最終更新日:2003.02.11